『デザインの伝え方』を意識する

はじめに

8年ほど前に、オライリーが出版した『デザインの伝え方』という書籍の監訳を担当させていただいた
組織におけるコミュニケーション術という副題で、デザインを他者に伝える際に注意すべき点や、必要な心構え、そして効率的に合意形成を進めていくためのテクニックが書かれている
なぜ、今『デザインの伝え方』を取り上げるのか?
コロナが落ち着いたとはいえ、ハイブリッドな働き方を受け入れている企業が増えたと共に、在宅勤務が中心の生活を送っている方はまだまだ多いはず。私も1週間のうち、約半分は在宅で勤務している。そのため、チームはもちろん、ステークホルダーや他部署の関係者との会話はほぼオンラインで済ませている
オンライン中心の業務比率が上がると、それまでのコミュニケーションに様々な変化が訪れる。オフィスの場合は、チームやステークホルダー、関係部署の人々は姿を探そうと思えば見つかるのは当然のこと。しかし、オンラインでは誰が、何をしているのかが見えづらく、不安を掻き立てる
そうなると、プロダクト開発の進め方にも影響が出てくる。その内の一つが、目に見える成果物を具体的に示さなければならなくなったことではないか。Before コロナは自分の成果を見える範囲で証明することができたが、それが見えづらくなった今、自分から積極的に共有しなければならない状況にある
そのために、デザイナーはデザインをすること以上に、周囲にデザインを理解してもらうためのコミュニケーションに力を入れなければならないと考えている。そこで参考になるのが『デザインの伝え方』である

デザイン領域の特徴

専門家でもない人が専門家の仕事に意見する権限を持つーこれは現代の組織において、デザイン以外の分野ではほぼあり得ない現象です
本書に書かれている一文だ。ハッとさせられた
確かにそうかもしれない。スマホの爆発的な普及によって、デザイナーが手がけるインターフェースは、企業の売上に直結するほどのインパクトを与えるようになってきたため、自然の成り行きとして非デザイナーとの接触機会は増えてきている
結果として、デザインは他の分野に比べると、はるかに意見の対立しやすい分野である
視覚的に目にするものであるが故に、デザインが主観的なものであると捉えられることが多く、我々の直感がデザイン上の問題をどう解決してくれているかを明確に説明できないでいる。そのため、ステークホルダーがデザイナーに注意を喚起する問題や懸念の大多数は、誤解や伝達の不備に起因しており、コミュニケーションが成立していないにも関わらず、成立したと思い込むことによって発生する
これからのデザイナーに求められるスキルは、ステークホルダーや関係者の期待をうまく調整する能力なのではないだろうか?

デザインを正しく伝えるポイント

ステークホルダーや関係者の期待をうまく調整する能力は、素晴らしいデザインを生み出す能力よりも重要になってくる。ユーザー視点だけではなく、ステークホルダーの視点から見てみると、より良いデザイン(プロダクト)を生み出す可能性が広がってくる
本書では、ユーザー中心のデザインと同じ原理原則を紹介しており、組織におけるステークホルダーとのコミュニケーションにも適用する方法について述べている。デザインを理解してもらうためのコミュニケーションは、デザインそのものよりも重要だと指摘している
ステークホルダーにデザインを伝えるときのポイント
  1. このデザインはどのような問題を解決できるのか?
  1. このデザインはユーザーにどのような影響を与えるのか?
  1. このデザインが代替案よりも優れている理由は何か?
お気づきだろうか…?
これと同じことをユーザーにもやっているはずなのだ
  • このデザイン(プロダクト)はあなたのこの問題を解決することができます
  • 他のデザイン(プロダクト)よりも、こっちの方が優れている理由はこちらです
前述の通り、組織におけるステークホルダーとのコミュニケーションは、ユーザーに対する場合と同じ原理原則を当てはめているのだ

偉大なデザイナーは、偉大なコミュニケーター

「偉大なデザイナーは、偉大なコミュニケーター」という章がある。デザイナーは、ユーザーとの接点を担う人である。そのため、多くの関係者と会話しなければいけないのは必然であり、それは理解しなければならない。そのため、意見を言ったり、質問をすることに、躊躇してはならないと思う。私の経験からしても、上で紹介されているような質問を聞く権利は新卒だろうと、新しく入ってきた中途だろうと、誰でも聞く権利はある。耳を貸してもらえない組織は、おかしい
最後に、本書では、デザインの伝えるときの心構えとして、IDEAL という発想を紹介している
IDEAL
  • Identify the problem:問題を特定すること
  • Describe your solution:解決策を説明すること
  • Empathize with the user:ユーザーの気持ちになること
  • Appeal to the business:組織にアピールすること
  • Lock in agreement:合意を確実に取り付けること
合意が得られれば単なる IDEA(アイディア)を持っている段階から、本当に理想的な(IDEAL)なプロダクトやサービスが生み出せる段階へ進むことができる

非デザイナーの方へ

本書の最後の方に、デザイナーと仕事をよくする非デザイナーの方向けの言葉があるので紹介したい。デザイナーと仕事をするときに、ぜひ心掛けて欲しいと思う
  • 焦点を当てるべきは「デザインの好き嫌い」ではなく「デザインの有効性」
  • 解決策の提案はせずに、理解のための質問をする(それもいくらでも)
  • 「自分のユーザー」という考え方は捨てる
  • デザイナーの説明をちゃんと聴く
  • デザイナーにも決定権を委ねる
  • 言葉使いを丁寧にし、フラットな関係を保つ
  • 裏付けとなるデータの有無を尋ねる
  • デザイナーが成果を上げるのに必要なものを漏れなく提供する

この記事に書かれている内容は、過去にXデザイン学校のイベントでお話しさせていただいた一部内容を抜粋したものです。ご興味があればそちらもご覧ください