デザイン組織の「理想と現実」の狭間で思うこと

本業とは別に、副業で「Cocoda Team」という Cocoda の toB 向けプロダクトにデザイン顧問として関わっています。さまざまな企業と会話する機会が増えているのですが、デザイン組織が構築されているケースが非常に多いことが学びの一つとしてありました。ここで指しているデザイン組織とは、マクロ/ミクロを問わず自社サービスのユーザー体験の向上をミッションとする組織と定義しています。

目次

なぜ、デザイン組織を設けている企業が増えてきているのか?

デザイン組織そのものに対して、これまで UX デザイナーとして長年経験され、エンタープライズに勤めている方においては目新しさはないかもしれませんが、デザイン組織が設立される背景や過程がこれまでと異なっているように思います。企業規模も問わず、実際にスタートアップもデザイン組織を構築しているケースが出てきています。

ではなぜ、デザイン組織を設けている企業が増えてきているのでしょうか?

理由は3つあると考えています。まずひとつは、昨今よく耳にする DX(デジタルトランスフォメーション)を加速させるために、アジャイル開発に代表されるような、より早いスピードでプロダクト開発を可能とするための専門組織を構築するためです。専門家を外から雇ったり、社員をコンバートさせて組織を構築するパターンがあります。

2つ目は、特にデザイン業務をアウトソーシングしている企業に見られる傾向なのですが、自社にデザインのナレッジを蓄積していくために内製化したいというニーズから、デザイン組織を築き上げるパターンです。Pivotal Labs で働いていたときに、このようなニーズが多くありました。プロジェクト単位の契約では、ナレッジが引き継がれずに分断されてしまうことが多く発生するため、運用面も含めた課題解決としてデザイン組織の内製化があります。

3つ目は、ビジネスとエンジニアリングと同様に、企業の競争力を高めるために、CDO/CXO を積極的に採用し、デザインインパクトを創出しようとしている企業が増えてきたことです。2018年に経済産業省と特許庁が提言した「デザイン経営」を組織に導入するために高度デザイン人材を採用することを推奨していることがその背景にあると思います。

デザイン組織成功のカギは「学習」と「連携」にある

この時代の潮流からデザイン組織の「現実」を探るために、オンラインイベント「デザイン組織の理想と現実」を開催しました。登壇者は、独断と偏見で今最もアツイ企業でUXデザイナーとして活躍されているお三方にお願いしました。

マネーフォワード社は、ここ数ヶ月で CDO を新たに迎え入れ、各カンパニーにデザイン責任者を設置するなど、デザイン組織の強化に力を入れ始めている、注目企業のひとつです。ヤプリ社は昨年末の上場で話題になりました。今では企業の DX をアプリ構築で支援するサービスに注力しており、そのサービスの急成長を支えるデザイン組織に関心がありました。atamaplus社は個人的に大ファンで、LeanUX やデュアルトラック・アジャイルなどあらゆる手法を積極的に取り入れながら、デザイン組織を進化させて行っています。

イベントの詳細は「#デザイン組織」から辿ることができますが、個人的にお話を伺っていて印象に残ったことは、3社とも組織としての「学習」と「連携」に力を入れていることでした。

マネーフォワード社の場合、事業やユーザーに対する高い解像度を持ってデザインを行うため、ドメイン(カンパニー)ごとにデザイン組織が編成されています。加えて、デザイン責任者が兼務するデザイン組織の更なる強化のために専門組織(デザイン戦略室)も設置し、連携しながらナレッジシェアをしているそうです。ディスカッションで参加者よりデザイン組織におけるメンバーの採用や育成に関する質問があったのですが、マネーフォワード社では新たに採用するデザイナーに求める条件の一つに、学習意欲が高いことが加えられているそう。

ヤプリ社のプレゼンテーションを伺っていて印象的だったのは、デザイン組織はあれど、企業担当者を始めとする他部署ほど顧客理解が進んでいないために、本質的課題になかなか辿り着けない課題があること。そのため、他部署だけではなく、顧客理解を深めるために他のデザイン組織との連携を強化しているそうです。この課題にはとても共感します。ユーザーインタビューをする際に気をつけたいポイントのひとつですね。

atamaplus社では UX Unit Success というデザイン組織が存在します。各プロジェクトのデザインへの支援はもちろん、採用活動や組織設計の支援を中心に行っている組織なのですが、興味深かったのはチーム規模が拡大していく環境でも互いの学びを促進するための取り組みが盛んに行われていることです(例:UIランチ、UXギャザリング)。これは真似したいですね。
お三方にお声がけするときは気づかなかったのですが、全員デザイン組織のマネジメントに携わっていることがわかりました。参加者より事前に「デザイン組織の採用やメンバーの目標管理はどうでしていますか?」という質問をいただいていたこともあり、当日はデザイン組織の採用やメンバーの目標管理についても触れました。デザイン組織とはいえ、メンバーそれぞれが主体となって各プロダクトないしはプロジェクトに参画している故に、ドメイン知識のみならず同様のデザイン品質を組織横断で担保するために、プロフェッショナルとしてのスキルアップの必要性が問われています。atamaplus社のような定期的な勉強会の開催は、チーム運営のために必要不可欠な活動なのかもしれません。

デザイン組織に「正解」はあるのか

イベント後半に自分がモデレーターとなって行われたディスカッションでは、デザイン組織の理想論について議論。そこで辿り着いた結論は、デザイン組織に正解はないということです。正解を求めることは間違っている、と言った方が適切かもしれません。

自分のこれまで勤めていた企業を振り返ってみても、その実態は実にさまざまです。

  • サービスごとのチームの一員としてデザイナーが所属しているケース
  • 横串組織に所属しながら定期的に関わるプロダクトが変わってくるケース
  • 専門組織のデザイナーとしてプロジェクトごとにアサインされるケース
  • デザイナーが不在で業務委託で臨時デザイン組織が編成されるケース

イベント冒頭のイントロにて、デザイン組織を取り巻くディスコースについて海外の事例を紹介させていただきました。そこで見えてきたのは、UX デザイン職種の多様化と細分化です。

UX ライターや UX リサーチャーなど数年前までは馴染みのなかった職域(職種)が、サービスのユーザー体験の品質向上を目的とした活動として拡張しつつあることがわかります。これはあくまでも「理想のデザイン組織」の一例として今尚議論されています。これだけ多様化してくると、チームとして成立するのかどうか、はたまたメンバー間の連携が取りにくくなるのではないか、といった懸念があります。それ以前に採用できるのか、といった問題はありますが…。

しかし、自分はそれでいいと思っています。理想とするデザイン組織像は描き過ぎない方がいい。

我々は何か目新しいものや不安要素に直面すると、正解とは何か、完璧とは何かを直ぐに求めたがる傾向にあります。ところが、理想像を決めてしまうとそれに到達することがエンドゴールになってしまい、それ以上になることはありません。チームはプロダクトと同じで、生き物です。起こりうる状況の中で、常に変化しなければ不確実な状況下でも対応が困難になります。そうあり続けるためには、一人一人が責任感を持ってプロフェッショナルとして生存していくために、学習意欲を持つことが前提として挙げられます。これは、上記でも触れた通りイベント全体で共通した話題です。
個人的にも組織における UX デザインをリードしている立場にいるため、「あるべき」ではなく「なりたい」チーム像をイメージするときがあります。それは、サッカー日本代表の元監督である岡ちゃんこと岡田武史さんの言葉に表れています。

選手には、共感や信頼なんてなかなか生まれないから、お互いに存在を認め合うだけでいい。今まで全員仲良しなチームなんてなかったけど、”こいつは未だにどうもソリが合わないけど、パスしたら絶対決めてくれる”って思える関係性なら強いチームになる。

デザイン組織は常に変化していく生き物です。理想と現実は折り合い、高め合うものです。そのため、このような議論が継続的に行えるような場の設計を今後もしていきたいと思います。お楽しみに!

追記

当日の資料をそれぞれのスピーカーの方々に公開していただきました!