変化を遂げる寄付のユーザー体験(UX)

目次

寄付の手法の多様化

近年、寄付をするという体験に変化が訪れつつあります。それは、従来の「社会のために役立ててください」という抽象的な寄付ではなく、寄付先、つまり対象を決めた具体的なものへと変わっていっている気がします。クラウドファンディングをはじめとする、寄付先が明確なプラットフォームに人が集まってきているのも、その現れかもしれません。SNS との親和性も高いことから、その勢いは更に加速しているようにも思えます。
もう一つの変化は、寄付者と事業者または個人が直接結びつくような動きが生まれていることです。これまでの寄付活動は、一方通行であったのに対し、近年は寄付をどう活かしたのかを会話するやりとりの場が増えてきているような気がします。
これらの変化を感じるようになったのは、自身の寄付活動による体験からでした。

なぜ、寄付をしようと思ったのか?

緊急事態宣言以降、家にいてリモートワークが増えると必然的にネットに触れる時間が増加します。そうすると、困っている人の話であったり、身近な社会問題について見聞きすることも増え、何かできないかと「Give, Give, Give, Give and Give」の習慣が働いたことがきっかけでした。

人間というものは、他人に一方向的に頼るような状態を嫌いなので、あなたから情報をもらった人は、必ずあなたのもっていないウェット情報をもたらすようになります。 (中略) ウェット情報をだすのに、いちいち見返りなどを期待せず、とにかく自分で聞き出してきたり、加工してきたりした有益な情報を「Give, Give, Give, Give and Give」という具合に、関係者に与え続ける、ある意味で逆転の発想です。 貴重な情報の取り扱いに慣れていない人は、すぐに「Give and take」というかたちでの見返りを相手に期待してしまうものなのですが、これでは自分が相当貴重な情報をもっていない限り、見返りとして等価に帰ってくる情報もあまりパッとしたにものになるのは当然です。

書籍『新しい戦略の教科書』より

とはいえ、どこでも寄付をすればいいというわけではありません。自分の関心は、with コロナ時代に突入したことによって露呈した身の回りにある課題へのシフトして行きました。例を挙げると、保育園に通っている子供がいるのですが、保育園の救援や登園の自粛で賃金を減らされ退職を余儀なくされた保育士の方々への支援がまず一つ。そして言わずもがな、重労働を強いられている医療従事者への支援です。他にも、いずれ自分も関わるであろう介護や、次世代の人財が直面する就職難といった分野にも関心があります。

自分はこれまでにリクルートや Ubie を通じて就活や医療の課題解決に挑んできました(自己紹介ページ)。一方で、自分の身体は一つしかないので、全ての分野に関わることは不可能です(当たり前ですが)。たださえドメイン知識を有する人が急務であるというのに、いちからドメイン知識を習得するにはかなりの時間を要します。自分がこれまでに関わってきた分野に関しても、まだまだだなと思うときは多々あります。

であれば、その分野におけるスペシャリストに寄付という形式で支援すればいいのでは?と閃きました。それも、それぞれの分野の社会課題に本気で向き合っている事業者に願いを託すための活動と位置付けることができれば、抵抗は全くありませんでした。ただ、明確な寄付先がわからないのです。そこで目に入ってきたのがサブスクリプション形式の寄付が可能な「solio」「soar」でした。

選べる寄付−興味がある領域の探索

solio は寄付を滑らかにして、社会の力になりたい、をミッションとしている事業者で、「特定の分野に関心があるけど、寄付をするハードルが高い」と感じている人を支援してくれるプラットフォームを提供しています。

solio の魅力は2つあると思っています。

  1. 自分のように、寄付をしたいんだけれども、明確な寄付先がわからないと言ったペインを解決してくれる
  2. 寄付先の事業者の信頼性を担保してくれている

前者から紐解くと、solio では解決するためにサイト上では関心のある寄付先をジャンルから自身が興味がある領域を選ベるようになっています。例えは、自分の場合は以下のジャンルの事業者に寄付をしています。自分の solio 上のポートフォリオはこちらからご確認いただけます。

  • 出産・子育て支援
  • 子どもの教育
  • 自然・環境保全
  • 動物保護

現時点(2020年1月)では12のジャンルから寄付先を選べるようになっていて、寄付先のジャンル(事業者)を変更することも容易なので、社会情勢を見ながら要求の矛先を変える柔軟性もまた魅力的です。

solio
solio の公式 note より

加えて、各ジャンルに所属している複数の団体(認定 NPO 法人、公財団法人、公益社団法人)がまとめられているため、solio が代理でそれぞれに寄付してくれる仕組みなっています。様々なバックグラウンドをお持ちの方々がサービスを運営しているため、信頼性の担保はサイトに掲載されている時点でなされていると感じています。もう一つ、寄付されたお金の使いみちが明示されており、寄付するきっかけともなった「社会課題の解決にどれだけ近いてきているのか」が活動報告としてマイページ上で表現されているのも、信頼関係の構築に繋がっているのが solio のもう一つの魅力です。

物語を起点とした寄付者と事業者の結び

同時期に soar への寄付を開始しました。

昨今では多くのウェブメディアを目にする機会が増えましたが、その中でも soar が魅力的に思えたのは、一人一人のストーリーを大事にしているからです。それも、障害や病気、貧困や格差など、様々な困難に出会った方々が主役であることが他のメディアと一線を画すところです。

障害や病気、性的・民族的少数性、経済的・機会的な格差などによって、人が自分の持っている可能性にふたをされることない社会。生まれ育った環境や自身にある困難によらず、誰もが自分の可能性を活かして生きる未来をつくります。

あまり大きな声では言えませんが、自分は障害者です。見えない障害を抱えています。見えないことへの辛さが、常に付き纏っています。そのため、soar に掲載されている記事に目を通すと、自然と自分と重ねる瞬間があります。この「知らない」ということが引き起こす悲しみをなくしたいという soar の想いとリンクし、社会に広げる活動を託したいと思ったことが寄付に至った背景です。
soar への寄付はそれだけでは終わりません。共に学び、共に考えて行動していくための横の繋がりをとても大切にされていて、サービスを運営されている方々と寄付をした人々が集まるコミュニティが形成されています。活動報告のみならず、ゲストによるテーマトークとコミュニケーションが生まれる場が定期的に開催されており、一つの思想で人々が集まれる貴重な場だと思います。
寄付は(ほぼ)個人で行うものであり、孤立感が漂いやすい活動です。それを払拭してくれる soar のこの取り組みは貴重なのではないでしょうか。

社会貢献の総量を増やす

そもそもの話ですが、事業に関わっていることそのものが「社会貢献活動」です。事業活動を通じてプロダクトやサービスを提供することで、社会に貢献するという意味での、社会貢献活動です。ただ、極端ですが、所属している事業以外のいわゆる社会貢献活動は行う必要はないと捉えることができます。

しかし、冒頭でも述べましたが、COVID-19 の感染拡大によってあらゆる社会課題が露呈し、あらゆる領域への興味や関心の幅が広がっていきました。そこで寄付という名のソーシャルビジネスを支援したいという想いが芽生え、社会貢献の総量を増やすために寄付することを決意しました。社会課題の解決にはかなりの時間を要することは想像できます。そのため、一時的な寄付ではなく、サブスクリプション形式の寄付が可能なのもの理にかなっています。

いざ取り組んでみると、今回ご紹介したように、これまでの寄付とは異なる新しい寄付のカタチとも言えるユーザー体験がそこに構築されていました。サービスデザインのヒントも、このような活動を通じて得られるのではないでしょうか。2021年。新しい挑戦を楽しんでいきましょう。