
ユーザーリサーチの価値を最大化する属人化させないUXリサーチ
このブログ記事は、先月末に NIJIBOX さん主催で開催されたイベント『UXリサーチの最適解 〜職域と機能から考えるベストプラクティス〜』でお話しさせていただいた内容の解説になります。
目次
なぜこのテーマを選んだのか?
主催者と登壇者間で2回に渡るディスカッションをした結果、昨今の UX デザイン界隈におけるトレンドの一つでもある UX リサーチを取り上げることにしました。UX リサーチの定義や職域、必要性などが語られるイベントが非常に多く開催されていますが、もう一歩先に踏み込んだ、組織への装着について議論がなされる時間をより多く設けるべきである、という結論からこのようなテーマを設けることになりました。
当イベントの位置付けは、HOW TO よりも、UX Maturity Model(UX 成熟度モデル)における第3段階「Invested」− つまりUX デザイン的活動は投資に値するかどうかを見極めるためのディスコースを促す場です。
UX リサーチをする上で大切な3つのこと
私が UX デザイナーとしてのキャリアを選択した当時、UX リサーチはもちろんのこと UX リサーチャーという職種すらありませんでした。ユーザーリサーチが近しいかもしれません。しかし、スマートフォンの普及などに伴い、ユーザー体験そのものが経営に直結することにようになったことで、より広義のユーザー体験の設計と改善に資本を投下する企業が増えてきたことが、UX リサーチとして生まれ変わった背景にあるかもしれません。
ところが、UX デザインが UX デザイナーだけで完結しないように、UX リサーチにも同じようなことが言えます。なので、タイトルの「属人化」と「UX」を強調しました。このセッションで私が伝えたかったことは以下の3つです:
- UXリサーチの良し悪しは、リサーチの結果ではなく、ユーザーが求めているプロダクトが 提供できたかどうかで判断すべきである
- UXリサーチで検証するための仮説の種は、チームの誰もが持っている。 ユーザー体験のリサーチは組織全体が取り組むべき活動である
- リサーチが開発のボトルネックとなってしまってはNG。いまこの瞬間も使っている ユーザーがいることを認識し、成長速度を上げるために仮設検証を高速に回そう
自身のキャリアから見たリサーチの本質
以前、「UX デザイナーからプロダクトマネージャーへのキャリアパスの探究」というブログ記事で自身のキャリアについて触れましたが、私は UI デザイナーとしてキャリアをスタートさせました。その後、情報アーキテクチャへと視点を広げ、そこから少しづつ、ユーザーインタビューやユーザビリティテストといった、いわゆる「対ユーザーのリサーチ」を専門としていた時期がありました。ただ、ユーザーリサーチャーという専門家ではなく、UX デザイナーの延長として行っていました。その後、UX デザイン→サービスデザイン→プロダクトマネジメントとミクロからマクロな視点でプロダクト開発に携わっていくことになるのですが、プロダクト開発におけるリサーチが明らかにすべき点は3つあると思います:
ただし、これらの問いに対する納得度の高い結果が得られたとしても、いいリサーチとは言えません。期待した結果ではなく、最終的にはプロダクトが世に出たときにユーザーが求めれている価値が提供できたかどうかで判断すべきです。これは、例えユーザーリサーチであっても UX リサーチであっても、リスクを低減するための活動としてのリサーチの本質だと思います。
組織的活動としての UX リサーチ
UX リサーチャーを批判しているわけではありませんが、捉え方によってリサーチをする人が限定されてしまうと、投資する以前に関心ごとで終わってしまい、前述の UX Maturity Model の階段を登ることすらできず、組織全体への浸透が困難になってしまいます。
私は、UX リサーチは組織全体が取り組むべき活動だと思っています。なぜなら、リサーチに必要な仮説の種はチームの誰もが持っているからです。某就活サイトのリニューアルに携わっていたときに、身を以てそれを学びました。マーケティング、営業、カスタマーサポート、エンジニア…サービスに関わっている人であれば、何かしらのインサイトを持っています。なぜならば、インサイトはファクトから生まれ、そのファクトは日々の分析やサービス運営などから見出されることが多いためです。しかも、それぞれが異なるファクトを保持していることが多いため、インサイトも多様です。
これが、仮説の種になります。あとはそれを検証可能な形式に整え、リサーチの計画を練って実行すればまた新たなファクトを集めることができます。これを誰もが必要なときに必要な情報にアクセスすることが可能になるよう一元化することができれば、それは常に進化していき、ユーザー体験の向上のために当事者意識も芽生えると同時に、リサーチを組織全体で取り組むべき活動として認識されるようになります。
「サービスに関わっている人はそれぞれインサイトを持っている」は大事な言葉だな。
・インサイトはファクトから生まれる
・ファクトは日々の分析やサービス運営から見いだされる
・サービスに関わっている人はそれぞれインサイトを持つ
・インサイトや学びを一元化し、検証しやすい形式に
#NIJIBOX— Ikeya (@ikeya_ms) September 29, 2020
共有フォルダでもいいですし、定例会議でもいいです。ファクトを集めることから始めてみてください。
アジリティの高い UX リサーチ
前職の Pivotal Labs でご一緒させていただいた多くのクライアントを含め、アジャイル開発を推進している企業は年々増加してきているように思います。特に昨今では HOW としてのアジャイル開発が触れられることが多い DX に関する記事を目にしない日がないくらいです。
アジャイル開発の導入によって得られるアウトカムの一つとして「ユーザーからのフィードバックまでのリードタイムが短くなる」があります。従来のプロダクト開発と比較してリリース頻度が格段に上がるため、仮説検証を高速に回せるようになりました。そのため、リサーチも従来とは違ったアプローチをとっていく必要性が出てきました。これはリモート環境でも可能です。
UX リサーチの必要性が理解できていても、その実行における時間的コストが肥大化することでプロダクト開発のボトルネックとなってしまっては本末転倒です。世の中には非常に便利なアクセス解析ツールがどんどん増えてきています。故に今この瞬間も使っているユーザーの行動をその場で分析することも可能になりました。フィードバックループの速度が速くなればなるほど、プロダクトやサービスの成長速度も速くなります。
冒頭でもお伝えしましたが、リサーチの結果は、ユーザーが求めている価値が提供できたかどうかで判断すべきです。当初計画していた通りにできなかったから失敗というわけではありません。如何に低コストで、高いリターンを得ることができるのか、それだけを考えた方が組織内衝突もなくなります。
リサーチを始めるタイミング
最後に、セッションの終わりでも質問をいただいていましたが、リサーチをすべきタイミングについて自分なりの意見を述べて終わりにしたいと思います。言わずもがな、リサーチの目的は仮説検証を繰り返してプロダクトやサービスを成功へと導くことです。そのため、ポイントとなるのはフィードバックループを止めないようにすることです。
以下がそのリサーチをすべきタイミングを判断するためのサインです:
もし、UX リサーチャーが必要か否かを判断するための材料が必要というのであれば、上記を参考にしていただけるといいかもしれません。このサインを見逃すと、リサーチの意味を見失ってしまいます。
だからと言って UX リサーチャーに全てを委ねるのではなく、組織的活動としての UX リサーチをリードする専門家としてポジショニングした方が、それこそユーザー体験の底上げに最大限貢献できるのではないかと考えています。