プロダクトチームのコンセンサスを得る「ローマ式投票法」

この記事では「ローマ式投票法(Roman Vote)」という意思決定を支援するためのアクティビティの一つをご紹介します。ローマ式投票法の導入によって、チームは様々なメリットを得ることができます。チームのコンセンサスが得やすく、サポートしあえる関係を構築できたり、チームの心理的安全性を担保できる、など。みなさんは、普段からどのように周囲のコンセンサスを得ていますか?

目次

意思決定の場でよく起こること

複数人で何か意思決定をするときに、困った経験は誰にでもあると思います。それが例え仕事だとしても、プライベートだとしても。さぁ、意思決定をしようとするときに静かになる。そこで口にする「みなさん、これでいいですか?」それに対して、コクリと頷く人もいれば、異論がなければそれは賛成という都合のいいように解釈して、その場を締めちゃうなんてことはありますが、それは周囲のコンセンサスが得ているとはとても言えませんよね。以前ブログでもご紹介した「2×2」を実践する上でも同様のケースに陥るかもしれません。

どうすればもっと効率よく合意することができるのか?よくある模範回答は以下の2つではないでしょうか。

  1. 多数決によって決める
  2. 相談や話し合いの場を設けて偉い人が決める

これでもし、周囲のコンセンサスを得ることができたのなら、それは嬉しいですよね。二人とかだったら争いはないのでしょうけど、それがプロジェクトチームのように複数人が関与していた場合、多くの意思決定の場が懸念点の洗い出しやアイディアの出し合いで終わってしまい、次に持ち越されることもしばしばあるのではないでしょうか?自分はよくありました。「また別途お時間を調整して相談させてください」は一時、自分の中での流行語大賞になっていました。
「賛成」や「反対」の文脈で許容してしまうと、結果に対するサポートであったり、より良い提案が生まれにくくなってしまいます。決定事項に対して納得して熱量が半端ない人もいれば、しらけている少数派の人だっているでしょう。このような意思決定方法論が続くと、中長期的に見るとプロダクトや組織に関する課題は徐々に表面化してくる恐れがあります。
そのため、最適なアプローチはどれほどのコンセンサスが周囲から得られているのかを見える化することにあり、最終的な意思決定の前に不明点や反対意見をも受け入れることです。ここでご紹介する手法は「ローマ式投票法(Roman Vote)」です。

ローマ式投票法とは?

古代ローマでは、剣闘士であるグラディアトルが戦った闘技会のコロッセウムにて、その場を埋め尽くしていた民衆の意見を「Thumbs-up」または「Thumbs-down」で判断し、意思決定をしていたと言われています。20年ほど前に公開された映画「Gladiator(グラディエーター)」で、当時のローマ皇帝が敗北した剣闘士の始末を決定する際に、これを用いているシーンがあります。

  • Thumbs-up(親指を立てる):賛成します、または受け入れます
  • Thumbs-side-ways(親指を横にする):マジョリティの意見に乗ります
  • Thumbs-down(親指を下向きにする):受け入れません、意見があります

もし全員が Thumbs-down だった場合、その案は却下ですよね。もし、複数の意見が対立した場合、Thumbs-down の意見をまずは聞いて同意した内容について振り返りを行います。そうすることで、Thumbs-up がマジョリティでも Thumbs-down が複数見られる場合は、その意見を参考にする機会が与えられます。但し、大半が Thumbs-side-ways だった場合は注意が必要です。あまり参考にならないことが多いです。どちらでもないが多いと、論点の再整理や条件の見直しを推奨します。

ローマ式投票法の流れ

ローマ式投票法は実はプライベートな場でも用いることができます。ここでは、高校時代の同級生5人と一白二日の旅行を計画するときのシチュエーションを想定したときの、ローマ式投票式の流れをご紹介したいと思います。

  1. ファシリテーターを決める
  2. 決めたい内容の共通認識を合わせる
  3. 前提条件を整理する
  4. 会話のための時間を設ける
  5. 意思決定に必要な情報を整理する(候補など)
  6. ローマ式投票法で決める

ファシリテーターは旅行をしよう!と提案した人です。わかりやすくFさんとしましょう。Fさんは、来週末の旅行先を決めるために、4人をカフェに誘いました。Fさんは先ず、集まってもらったメンバーに趣旨を伝え、移動手段や一人当たりの予算を提案します。それを聞いてメンバーは旅行先の候補を挙げていきます。行動範囲、混雑状況、当日の天気などから絞られていきましたが、会話が行ったり来たりで収集がつきません。幾つか優勢な案が出たところでFさんは会話を切り、ローマン式投票法を実施することにしました。
Fさん「では、旅行先を軽井沢にするかどうかで、みんなの意向を聞きたいと思います。では、せーのって言ったら親指を立てるか、横にするか、下げるかで教えてください。いいですね?では、せーの!」
(親指を立てた人:二人、親指を横にした人:二人、親指を下向きにした人:一人)
Fさん「割れましたね〜。まずは親指を下向きにした人の意見を聞いてみましょう。それを踏まえて、横にした人の考えも聞いてみたいと思います。では…」
ビジネスの現場はこんなに軽くないですが、一通りの流れとローマン式投票法の意味についてご参考になると嬉しいです。

ローマ式投票法をプロダクト開発に取り入れる

これはプロダクト開発を進める上で、日々の小さな意思決定をする場でも役立ちます。デザインコンセプトを決める場であったり、バックログの優先順位をチームで合意するときであったり。決定が明確なシチュエーションにおいては毎回実施しなくてもいいと思いますが、ポイントは周囲の、みんなからのコンセンサスが十分に得られているかどうかです。
コンセンサスが得られているということは、周囲からのサポートが得られるということです。例え、それが反対していた案であったとしても自分の意見をも受け入れた上での結果であれば主体性が生まれます。最近よく心理的安全性という言葉を聞きますが、それに近いと思います。

いずれ、ローマ式投票法が要らなくなる状態に持っていくことが、チームとして目指すべき姿なのかもしれませんね。

導入にあたってのアドバイス

もし、ローマ式投票法に興味があるのであれば、最後に二つのアドバイスがあります。

  1. なるべく早い段階で取り入れることを推奨します。なぜなら、既に特定の人物によって意思決定の場が支配されている場合は、あまり効力がありません。時間が過ぎれば過ぎるほど、チームのコンセンサスが得にくくなります。振り返りになりますが、そうなると、チームはどうなるでしょう?
  2. どの場でも取り入れようとしないこと。時間などの期限を設けて、それまでに明確な意思決定ができなかった場合にローマ式投票法を用いると、客観的に見ることができるのでオススメです。ローマン式投票法だけでしか決めれないチームは、逆に疑った方がいいかもしれません。

個人的に学んだのは、ローマ式投票法は全てを解決してくれる訳ではないということです。最も重要なのは、自分自身が下した意見から一歩引いて、見る姿勢を持つことです。頑固はよくないです。チームで前に進むためには、頑固者はいない方がいいです。
この空気に任せる曖昧な意思決定に終幕を!