
リモートワークだからこそデザインの伝え方を再考する
目次
背景
4年ほど前に、オライリーより出版された『デザインの伝え方』という書籍の監訳を担当させていただきました。
組織におけるコミュニケーション術という副題で、デザインを他者に伝える際に注意すべきギャップや、必要な心構え、そして効率的に合意形成を進めていくためのテクニックが書かれています。
なぜ、今ここで『デザインの伝え方』を取り上げるのか。自分はかれこれ約2ヶ月弱、在宅で仕事をしています。そのため、チームはもちろん、ステークホルダーや他部署の関係者との会話は全てオンラインで完結しています。いや、完結するように工夫せざるを得ない、といった表現が正しいのかもしれません。
昨日(5月7日)にこんなツィートをしました。
リモートワークへの切り替えによって、デザイナーはこれまで以上に周囲にデザインを理解してもらうためのコミュニケーションに力を入れなければならない。自身の経験で、過去に面倒だなと感じたことはあるけれど、デザインをすることよりも実は大事だったりする。じゃないと実現できないから。
— SAKATA Kazumichi (@mariosakata) May 7, 2020
フルリモートに完全移行すると、それまでのコミュニケーションに様々な変化が訪れます。例えば、相手が見えなくなる。オフィスにいる場合は、チームやステークホルダー、関係部署の人間は姿を探そうと思えば見えるのは当然のことです。しかし、オンラインでは誰が、何をしているのかが見えづらくなり不安を掻き立てます。そうなると、プロダクト開発の進め方にも影響が出てきます。その内の一つが、目に見える成果物を具体的に示さなければならなくなったことだと考えています。Before コロナは自分の成果を見える範囲で証明することができましたが、それが見えづらくなった今、自分から積極的に共有しなければならない状況にシフトしているように思います。
そのために、デザイナーはデザインをすること以上に、周囲にデザインを理解してもらうためのコミュニケーションに力を入れなければならないと考えています。
半分宣伝っぽくなってしまいますが、そこで参考になるのが『デザインの伝え方』です。
デザイン領域の特徴
専門家でもない人が専門家の仕事に意見する権限を持つーこれは現代の組織において、デザイン以外の分野ではほぼあり得ない現象です。
本書に書かれている一文です。ハッとさせられました。確かにそうかもしれません。デザイナーが手がけるインターフェースはいつの間にか組織全体の対ユーザーのインターフェースとなり、自然の成り行きとして非デザイナーとの接触機会は増えてきています。先日書いた「デザイン思考の如くー陥りやすい3つの誤解」という投稿でも、創造活動としてのデザインに非デザイナーを迎え入れることができた背景について述べました。
結果として、デザインは他の分野に比べると、はるかに意見の対立しやすい分野になりました。
視覚的に目にするものであるが故に、デザインが主観的なものであると捉えられることが多く、我々の直感がデザイン上の問題をどう解決してくれているかを明確に説明できないでいます。そのため、ステークホルダーがデザイナーに注意を喚起する問題や懸念の大多数は、誤解や伝達の不備に起因しており、コミュニケーションが成立していないにも関わらず、成立したと思い込むことによって発生します。
これからのデザイナーに求められるスキルは、ステークホルダーや関係者の期待をうまく調整する能力なのです。
デザインを伝えるポイント
ステークホルダーや関係者の期待をうまく調整する能力は、素晴らしいデザインを生み出す能力よりも重要になってきます。大変ではありますが、プロダクトをデザイナーとしての視点だけではなく、ユーザーに共感するように、ステークホルダーの視点から見てみると、より良いデザイン(プロダクト)を生み出す可能性が広がってくることがわかります。
本書では、ユーザーに対する場合と同じ原理原則を紹介しており、組織におけるステークホルダーとのコミュニケーションにも適用する方法について述べています。デザインを理解してもらうためのコミュニケーションは、デザインそのものよりも重要であり、冒頭で述べた通り with コロナの今は尚更です。
ステークホルダーないしは関係者にデザインを伝える際のポイントは3つあります:
- このデザインはどのような問題を解決できるのか?
- このデザインはユーザーにどのような影響を与えるのか?
- このデザインが代替案よりも優れている理由は何か?
お気づきでしょうか。実はこれ、ユーザーにも同じことをデザインを通して伝えているはずなのです。
- このデザイン(プロダクト)はあなたのこの問題を解決することができます
- このような価値を提供することができます
- 他のデザイン(プロダクト)よりも、こっちの方が優れている理由はこちらです
前述の通り、組織におけるステークホルダーや関係者とのコミュニケーションは、ユーザーに対する場合と同じ原理原則を当てはめていることがわかります。
悩んだら、相手の裏側を引き出す質問を準備しておくのも有効です。以下が本書で挙げられた例です。
- どんな問題を解決しようとしているのか?
- この方法で行なった場合、どのような利点があるのか?
- これは、このプロジェクトの目標にどんな影響を与えるのか?
これらの質問は、ステークホルダーとのコミュニケーションにおいて実はマストだったりします。と言うのも、オンラインだとどうしても存在が薄れて声が小さくなってしまう人が出てきてしまい、気軽さも欠けてしまってフォローアップが困難だったりするからです。その場合は、ややくどいぐらいに明確にしておくとコンセンサスは取りやすいかもしれません。
偉大なデザイナーは、偉大なコミュニケーター
偉大なデザイナーは、偉大なコミュニケーターという章があります。デザイナーは、ユーザーとの接点を担う人です。そのため、多くの関係者と会話しなければいけないのは必然であり、それは理解しなければなりません。そのため、平等に意見を言ったり質問をすることに、躊躇してはならないと思います。自分の経験からしても、上で紹介されているような質問を聞く権利は新卒だろうと、新しく入ってきた中途だろうと、誰でも聞く権利はあります。逆に耳を貸してもらえない組織は、おかしいと思います。
最後に、本書では、デザインの伝えるときの心構えとして、IDEAL というコンセプトを紹介しています。
- Identify the problem:問題を特定すること
- Describe your solution:解決策を説明すること
- Empathize with the user:ユーザーの気持ちになること
- Appeal to the business:組織にアピールすること
- Lock in agreement:合意を確実に取り付けること
合意が得られれば単なる IDEA(アイディア)を持っている段階から、本当に理想的な(IDEAL)なプロダクトやサービスが生み出せる段階へ進むことができるのではないでしょうか。
非デザイナーの方へ
本書の最後の方に、デザイナーと仕事をよくする非デザイナーの方向けの言葉があります。デザイナーと仕事をするときに、ぜひ心掛けて欲しいと思います。そうすれば、今まで以上に共創できるはずです!
- 焦点を当てるべきは「デザインの好き嫌い」ではなく「デザインの有効性」
- 解決策の提案はせずに、理解のための質問をする(それもいくらでも)
- 「自分もユーザー」という考え方は捨てる
- デザイナーの説明をちゃんと聴く
- デザイナーにも決定権を委ねる
- 言葉使いを丁寧にし、フラットな関係を保つ
- 裏付けとなるデータの有無を尋ねる
- デザイナーが成果を上げるのに必要なものを漏れなく提供する
最後まで読んでいていただき、ありがとうございました。