はじめに

久しぶりに長論文を読んだ気がします。

この記事は、ドナルド・ノーマン氏が米カリフォルニア大学の Design Lab の教授であるマイケル・メイヤー氏と共に記した「21世紀におけるデザイン教育の変革」と題した論文の要約です。Twitter でご紹介したところ、多くのレスポンスがあったため、挑戦してみました。注意事項として、これは私自身の整理のためでもあるため、記載の情報にやや偏りがあります。また、直訳ではなく意訳の要素が多いと思います。それをご理解いただいた上で、ぜひご参考ください。

Changing Design Education for the 21st Century

Michael Meyer and I have written a guide for changing how designers are educated. The paper is published in She Ji in a special issue on design education. But, together with our friends at IBM Design, we intend to implement the strategy outlines in the paper.

ドナルド・ノーマン氏と言えば、デザイナーのバイブルとして親しまれている「誰のためのデザイン?」の著者でありながら、UX(ユーザーエクスペリエンス)という概念を提唱した著名人です。それから30年。彼は今、米カルフォルニア大学 Design Lab の代表としてデザイン教育の改革に力を注いでいるようです。この論文を読んで、彼の思考に少しばかりの変化があったことを読み解くことができました。

当時、彼は UX をこのように捉えていました。

“User experience” encompasses all aspects of the end-user’s interaction with the company, its services, and its products.(引用元:The Definition of User Experience (UX)

この論文では UX という言葉すら出てきませんが、「Human Centered Design(人間中心設計)」が何度も言及されていることがわかります。

Design addresses human needs and desires. Design generates the tangible and intangible build environment as well as the social environment.

彼は、デザインをユーザーと企業との関わりのみに限定することなく、その定義を幅広く扱うようにしていることがわかります。しかし、その根底にあるのは人々のニーズを知り、応えること。社会と人のためにデザインをする、と言う意味では変わってはいません。それこそが、他の領域とは一線を画すしているからです。これは、UX デザインに携わっている我々へのメッセージとしても捉えられると思いました。いつからか、UX はデジタルな世界に留まっていました。

デザイン学校の歴史

イギリスの The Royal College of Art は1837に設立。グラスゴーの School of Art は1845年に設立。アメリカの The Rhode Island School of Design は1877年に設立されるなど、「デザイン学校」の歴史は長い。その中でも最も有名なのは1919年にドイツで設立されたバウハウスかもしれません。バウハウスが一躍注目を浴びるようになったのは、「Bauhaus Curriculumn Wheel」と呼ばれる特徴的なカリキュラムにありました。

Teaching at the Bauhaus – Bauhaus-Archiv | Museum für Gestaltung, Berlin

This conceptual diagram showing the structure of teaching at the Bauhaus was developed by Walter Gropius in 1922. The programme places ‘building’ [Bau] at the centre of all the activities. But a regular course in architecture was only introduced at the Bauhaus in 1927. Only the most talented students were admitted to the architecture course.

代表的な科目に空間や色、マテリアル・デザインなどがありますが、人間に関することや、人とモノとの関係性といったデザインにおける根本的な部分が抜けています。創作や絵画としてのデザインは当時、社会に大きな影響を与えていたかもしれないが、今では違います。

なぜ、デザイン教育を見直すべきなのか?

現在のデザイン教育を見直さなければならない理由には、以下の課題があると考えられています:

  1. デザイナーとしての視点及びプロセスの最も貴重な要素の大半は、誰かに教えられることがほとんどないこと
  2. デザイナーを育成するための多くのプログラムには依然として、暗黙知の偏狭な視点や非効率な構造のままであること
  3. Fortune誌に掲載されている500社の内、10-20社(2-4%)のみが CDO に等しいポジションを設けている。それはつまり、デザイナーに活躍の場が与えられていないということ
  4. デザイナーはこれまで以上により大きな責任を任されるようになってきたこと

デザインには、Making のみではなく、Doing と Managing も加わり、デザインスタジオを超えて、ビジネスや社会を推進するために求められる意思決定の場にも、加わるようになってきたことが大きい。確かにデザインは複雑な領域です。なぜなら、実践的でなければならない上に、学術的でもなければならないからです。

デザインに特化した教育機関は、いくつかのコアとなる共通指針を定めた上で、それぞれの地域特性や人の得意不得意に合わせたアドバンスコースを設けるべきです。結果としてユニークネスが生まれ、デザインも多様になっていきます。

Design Thinking と Design Doing の両立

デザインを考えるということは、実践や導入方法を考えるということに等しい。これらは必ずしも一体でなければならなりません。その中でも、Implementation は特に重要です。なぜならば、世の中のリアリティを映し出すからです。つまり、より多くのデザインにおける意思決定が求められるということになります。デザインの実践が社会にもたらすインパクトを理解しばければ、考えること(Thinking)に閉じただけのデザインになってしまいます。

デザイン思考が正にそうです。

This misunderstanding of design as a technique rather than a discipline also generates team conflicts.

デザイン思考はテクニックではありません。この誤解が、チームの摩擦による混乱を招くきっかけになってしまうことが多いのです。このままでは、永遠に社会に通用することがないナレッジのままで終わってしまいます。

デザイン学校に分類される教育機関は、わかりやすいスタジオ形式の教育を中心にカリキュラムを組むのではなく、他の領域に通用する基礎知識の開発や実践者と呼ぶにふさわしいデザイナーを輩出する工夫をしなければなりません。コンピューターサイエンスやAI、ビジネス領域の影に隠れたままでよいのでしょうか?

21世紀に求められるデザイナー像

Doing が大事と述べましたが、いきなり社会に放り出して擬似プロジェクトを立ち上げ、結果を出せと言う教育は望ましくありません。メンターを設けてチームが混乱したときのガイドであったりプロセス全体のおける思考過程の評価を推奨します。。

デザイン学校には2つのタイプがあります:

  1. 独立したデザイン学校
  2. デザイン専用組織が備わっている一般の大学

どちらがいいと言うわけではありません。どちらにもメリットとデメリットがあります。どちらで学ぼうと、学べる範囲と抜けている範囲、そしてそれを十分か自覚するかどうかで、より社会に求められるデザイナーに近づけます。その「範囲」を定めるために、ここに社会にインパクトを与えるデザイナーに求められるであろうファクターを明記します:

メソドロジー

  • 人間中心設計(HCD)
  • 共創、コミュニティ・ドリブン・デザイン
  • 戦略設計、メンタリング、ファシリテーション

クリエイティビティ

  • 個人、そしてチームの創造性の担保

リーダーシップ

  • 1-2年のプロジェクト経験
  • プロジェクトリーダーを2-3年経験

リサーチ

  • 定性調査
  • 定量調査

ビジネス領域

  • ファイナンス
  • データドリブンな意思決定
  • セールスやマーケティングへの理解
  • サプライチェーン・マネジメント
  • 知的財産
  • ビジネスモデルの理解
  • 役員へのプレゼンテーション能力

メイキング力

  • ラピッド・プロトタイピング
  • 基礎的なプログラミング
  • システム思考

実験と検証

  • 実現可能性、検証可能性の考慮
  • 小さいテストで大きな成果を出す
  • バイアスの抽出と排除
  • ABテストのメリットとデメリットの理解

エシカル(倫理)

  • 社会(環境やコミュニティ)におけるデザイナーの役割
  • 人、環境、健康、安全への影響力
  • 個人へのリスペクト(性別、宗教、国籍など)
  • 企業のポリシーと法律の考慮

現実世界

  • 世界史
  • 心理学、社会学、文化人類学
  • エルゴノミクス
  • HCI(ヒューマン・コンピューター・インタラクション)

まとめ

改めて、デザイン教育の歴史は長い。そのルーツは創作にあります。時代と共に、デザインへの期待であったり、価値が発揮できる機会が飛躍的に増えました。有形を前提としていたデザインも、今では電子メディアやバーチャル・ディスプレイ、プレゼンテーションにまで及んでいます。ワーキング・パターンにも変化が見られます。1箇所で完結するようなスタジオ形式のデザインから、世界中に散って共創しながらそれぞれの仕事をすることだってできます。結果として、デザインがもたらすクリエイティビティや課題の発見と解決のためのフレームワークのおかげで、様々なコンテキストへの適応を可能にしてきました。

デザイン教育はこの変化についていくのに精一杯です。その理由としては、企業に限らずあらゆるコミュニティや官僚のマネジメントレベルにデザイナーが不在だからです。なぜ、デザイナーだけがこのような扱いを受けるのでしょうか?可能性として考えられるのは、幅広い領域の知識を備えて、あらゆる議論に参加し、組織や社会のニーズをまず理解する必要があるからです。

Here, design has largely been unsuccessful.

何もデザインだけが失敗してきたわけではありません。エンジニアリングといった非デザイン領域にも同じような過去がありました。それはつまり、デザインにもできるということです。これが分かったからには早急にデザイン教育の改革に着手すべきです。まずはデザインから離れて、あらゆる視点から共通化できそうな基盤を構築し、柔軟性が担保できるようなケースを想定して会話を続けるべきなのです。