
MVP(Minimum Viable Product)は誰にとっての「最小限」なのか?
目次
MVP(Minimum Viable Product)とは?
プロダクト開発に携わっている人であれば、MVP という単語を一度は耳にしたことがあるかもしれません。これは最優秀選手を表彰するときの名称ではなく、起業家であるエリック・リース氏が彼の著書『リーンスタートアップ』で紹介したコンセプトです。彼の著書が出版されてから8年も経っていますが(いま調べて驚き)、プロダクト開発を続けていると、MVP という言葉だけが一人歩きし、誤った理解や解釈がそのままに、現在に至ってしまっているように思います。その理由は後ほど。
問題は、MVP の訳し方にあったと考えます。MVP は Minimum Viable Product の頭文字をとったもので、Wikipedia で以下のように訳されています。
実用最小限の製品(じつようさいしょうげんのせいひん、Minimum Viable Product、MVP)は、初期の顧客を満足させ、将来の製品開発に役立つ有効なフィードバックや実証を得られる機能を備えた製品のバージョンを指す。
別の言語のニュアンスを細かく汲み取って、万人が理解できるように意訳することは難易度がとても高いです。私の場合も『Lean UX』という書籍の監訳を担当させていただきましたが、どうしても「最小限」という単語が印象的なのか、組織にとって都合がいい言葉なのかわかりませんが「最小限の機能を搭載した製品」のことを指す言葉として使われることが多い印象を受けます。
最も重要なのは Minimum ではなく Viable
このようなシーンを目の前にしたことがあります。
新規サービスを立ち上げることになりました。様々なステークホルダーの協議した結果ぎ開発したい機能リストとしてエクセルにまとめられていて、その中でも優先順位が高いものには「高」というラベルが付けられています。それも、約3分の1が「高」だったりします。最悪なケースは、機能価値が未検証のまま優先度が割り振られているときです。根拠がないとなると、更にヤバイ。この「高」に分類されているのが、MVP だと言い張る人がいます。そもそも「中」とかあると、曖昧すぎてよくわかりません。
MVP の V を「実用的な、実行可能な」として直訳することができますが、これはサービス提供者視点ではなく、ユーザー視点に立ってみると、捉え方が変わってきます。誰にとっての最小限なのでしょうか?機能的な最小限を意識しすぎてしまうと、何の価値もない出来の悪いプロダクトになってしまうことがあります。
ああ、だから新しい手法を取り入れると失敗するんだよ。
このようになってしまいます。ポイントはユーザーの立場から見た場合の実用的なプロダクトとはなにか、を考えてみることです。
実用的、という言葉が意味するところを説明するのは大変難しい。そのため、私はよくこの絵を見せて関係者の理解を得ようとしています。
元々は米コンサルティング会社に勤めているアジャイルコーチがブログで紹介した図から来ています。この人は MVP を正しく理解するために Viable を Usable / Loveable と置き換えていることが素敵です。
Making sense of MVP (Minimum Viable Product) – and why I prefer Earliest Testable/Usable/Lovable
このユーザーは、いまいる地点から目的地まで移動するまでにかなりの時間がかかってしまっています。不便ですね。MVP を最小限の機能と認識し、機能単位でプロダクト開発を進めていくと、最小限の線引きが時間の経過とともにわからなくなり、実用性を高めるためにはつくりきるしかなかったりします。それが上段です。
一方で、下の段のスケートボードはユーザーが抱える問題への最初のアプローチとして、ユーザーがそのプロダクトに価値を見出してくれているかどうか、日常生活において実用的かという観点で検証をすることができます。まだまだ満足ではないかもしれませんが、ユーザーが価値を見出せて課題の解決に至りそうなのであれば、移動時間を短縮するための次のアイディアにステップアップすることができます。
MVP には目的があります。リーンスタートアップという開発手法の一部なのだから、一人歩きは危険です。最小限の機能は作れた。MVP は完成だ。これで一区切り、なんて終わり方はしてはいけません。もしそうなっていたら、誰にとっての最小限であって、誰が喜ぶ MVP なのか、を再確認したほうがいいかもしれません。
Tips:
- 機能リストがもし手前にあるのであれば、そのリストを半分に減らしてみてください。そして、更に半分にしてみてください。そこから始めてみましょう。
- そして仮説検証サイクルを可視化して価値を提供し続けていきましょう